今回は歴史を通じて、我が子への愛情がいかに深かかったということに触れたいと思います。
~古代インド人の詩「ティルックラル」~
まずは古代インド人から…。
古代インドのタミル語で書かれた箴言詩集「ティルックラル」には、「子を得ること」と題して、以下の詩があます。抜粋意訳です。
『第7章 子を得ること』
我が子の小さな手がかきまぜた食べ物は、
甘露よりもはるかに美味である。
我が子の体に触れるのは、親にとっては楽しみであり、
我が子の言葉を聞くのは、親にとっては喜びである。
ティルックラルは今から1500年前に完成したといわれていますが、これを読む限り、古代インド人がいかに子供を愛していたかが分かります。「我が子の小さな手がかきまぜた食べ物は、甘露よりもはるかに美味である」とは、なんとも微笑ましい表現ではありませんか。
これを書いた人が誰なのかは分かっていませんが、子供を暖かく見守る目と子供をやさしく包みこむ心の持ち主だったに違いありません。
~古代エジプトの呪文「病魔を追い払う」~
次は古代エジプト人。
現代と違い、医療技術が低かった古代エジプトでは、多くの子供が病魔によって、幼き命を落としました。ミイラなどを調査した結果、もっとも多い子供の死因は、消化管の感染症であったとそうです。
では、愛する我が子が病魔に侵された時、古代エジプトの両親はなすすべがなかったのでしょうか?
いや、彼らは黙って指をくわえているだけではなかったのです。
というのも、子供の感染症を防ぎ、病魔を追い払うために唱えられた当時の呪文が、現在にも残っています。以下、その抜粋意訳。
出ていけ、闇からの訪問者よ!
お前は我が子にキスをしに来たのか? そんなことはさせない!
お前は我が子を可愛がりに来たのか? そんなことはさせない!
お前は我が子に害を与えに来たのか? そんなことはさせない!
私から我が子を取り上げに来たのか? そんなことをさせるものか!
想像してみてください。横たわる子供の隣で、両親が一心不乱にこの呪文を唱えているです。
その子は自分が愛されていること、または自分が望まれている存在であることを知り、病魔に立ち向かう勇気を持ったでしょう。
この呪文に効果があったかどうか、現代の科学では解明できません。
しかし、親の情熱が子の生命力を高めたものと信じたい。
~重傷を負った勝海舟「夢酔独言」~
最後に日本を代表して、勝小吉にご登場していただきます。
勝小吉とは、明治維新の英雄、勝海舟の父親です。
江戸後期を生きた勝小吉は「夢酔独言」という自伝を残しました。
それを読む限りでは、勝小吉は勝海舟よりも波乱万丈な人生を生きています。
まず彼の経歴をご紹介しましょう。江戸における有数の剣客にして、喧嘩ばかりしている不良旗本、浅草・吉原の顔役でありながら、露天商の親分で、刀剣のブローカーや鑑定屋で生計をたて、果てには行者、祈祷師などを経歴しています。
さらに、生涯二度も失踪をはかり、あまりの素行の悪さに、21歳から3年間、父親に座敷牢に入れられたというハチャメチャぶり。
とうとう最後には、水野忠邦の「天保の改革」の時に、不良旗本として隠居謹慎を命じられてしまいます。そして、謹慎中に自らの人生を振り返って、「夢酔独言」(夢酔は号)を書きます。
勝小吉は「夢酔独言」の中で面白いエピソードを紹介しています。それは息子、勝海舟が重傷を負った時の話である。海舟は幼い頃、麟太郎と呼ばれていた。
□「麟太郎、犬に睾丸を噛まれる!」
麟太郎が9歳の時、犬に睾丸を噛まれた。
早速、医者を呼んでみたが、かなりの重傷であるという。
傷口を縫う時、医者の手が震えて、なかなか縫合できない。俺は刀を抜いて脅し、やっと縫わせることができた。
しかし、医者によると、今夜が山場だという。すると、妻は泣いてばかりいるので、怒鳴り散らして、叩き散らしてやった。
俺はその晩から、毎日、金毘羅へお参りした。
毎晩、水を浴びて、麟太郎の無事を祈ったよ。
俺は麟太郎が苦しんでいる間、ずっと麟太郎を抱いて寝た。
他のヤツには、絶対に手を触れさせなかった。
近所のやつらは「子供を犬にくわれて、気が狂った」と言いおったようだが、70日目には傷が治り、麟太郎は立ち上がることができたんだ。
病人には、看病が肝心だよ。
勝小吉の子供を想う気持ちが、ストレートに伝わってきませんか。
前述したが、この勝小吉という男は相当のバカモノです。というのも、彼の自伝「夢酔独言」は「俺ほどの馬鹿者は世の中にあんまりいないと思う」という書き出しで始まっています。私はこれまで最初の一行が「俺はバカだ」で始まる本を、これ以外に読んだことがありません(笑)。
そう、彼はバカなのです。しかも、金は盗むし、吉原には通うし、借金はつくるし、喧嘩はするしと、周囲に迷惑をかけまくったロクデナシです。
しかし、そんな小吉が重傷の我が子を見て、居ても立ってもいられなくなる。
そんな姿に私は感動を覚えました。
現在、いかに我が子を愛しているからといって、70日間、毎晩水浴びをして祈り、苦しむ子供を抱いて寝ることができる日本人がどれほどいるだろうか?
我々は自分達の事を文明人と呼んでいる。
古代エジプト人や江戸時代の人間よりも、我々の方が文明人だと思っている。
確かに昔に比べて、科学や技術は発展しているのだろう。
しかし、私は幼児虐待のニュースを聞くたびに、「我が子への愛」といった精神面で見た場合、古代人の方がよほど文明人と思えてしまうのだ。
古代バビロニア王国において、ハンムラビ王が制定した「ハンムラビ法典」。
今から3750年も昔に施行された法典であるが、196条には以下の条文がある。
『子供の目を潰したら、彼の目を潰す』
現在、幼児虐待を行っている両親は、ハンムラビ王が支配する時代に生まれなかったことを幸福に思うべきでしょう。
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